序言

埼玉工業大学 名誉教授 井門俊治(いどしゅんじ)

 手のひらに載るほどの小さい教育用のコンピュータ、 ラズベリーパイ(Raspberry Pi)を最初に見たのは、2014年の夏でした。 この時の衝撃を忘れることはありません。この小さなサイズのボードの上に、 LINUXサーバが実現されており、CやJavaなどの標準的なプログラミング言語、 そして今回のテーマである図式型のプログラミング環境のScratchまで搭載されていること、 インターネット接続も行えること、などに驚きました。
 約40年前に、マイコンが開発され、それまで大きな会社、研究所、大学などに設置され、 共有して使っていたコンピュータ(当時は電子計算機とも呼ばれていました)が、 個人で所有し、個人の環境で使えるようになったことは、大革命でした。そして約20年前、 インターネットが世の中に広く浸透し始め、コンピュータ(大型からパソコン、そして携帯電話まで) インターネットに接続され、データやニュースを世界中で共有できるようになりました。 そして、現在は、第3の情報革命、IoT(インターネット・オブ・シングズ、 すべてのものがインターネットに接続され、制御でき、データ管理が可能)が花開こうとしています。 そのIoTの変革の主役の一つが、組み込み可能な超小型コンピュータであり、ラズベリーパイです。
 ラズベリーパイは、2012年の年初にイギリスで開発されました。当初より、 小学生も学べるプログラミング環境を実現するという趣旨のものに開発されました。 そして、教育にも広く使える環境を実現するために、数千円という低価格で販売されています。 既存のPC用のキーボード・マウス、家庭にあるテレビやPCモニター、デジカメや携帯にも使われているSDカードは、 そのまま利用できるというオープン性も教育用という目的にピッタリです。 この特性から、わずか4年間で、世の中に広く認知され、教育の現場でも活用され始め、普及が始まっています。
 イギリス発ということにも衝撃を受けています。イギリスは世界標準のものを開発するという視点や力を持っているようです。 新規のCPUの開発が、米国に独占されているという20世紀の流れの中から、 IoTや小学生にも使える教育用コンピュータの実現という新しい流れを、ラズベリーパイを通じて実現しています。
 この教材の中では、ブラックボックス化が進み、携帯電話やスマホの中に潜み始めていたコンピュータをもう一度、 「見えるもの」にし、小学生以上のすべての年代の人間が、自分で考え、 手を動かして操作できるようになるという知恵が込められています。 日進月歩ともいえる進化をしているラズベリーパイの利用実例と多くの教材の中で、 この教材がさらに智慧の普及として世の中に貢献できることを確信し、 また期待しています。
(平成28年2月吉日)